弁護士コラム

時効が完成した債権と支払督促

(事例1)
相当昔の借り入れがあるが、期限の利益の喪失から5年以上が経過しており、消滅時効が完成している。
貸金業者から債権を譲り受けたサービサーから訴訟を提起された。答弁書を出さず出頭もせず、請求どおりの判決が言い渡され、確定した。
今度は、強制執行の申立てをされた。

この段階で相談に来られてもどうしようもない。確定判決の既判力により、もはや消滅時効の援用はできない。債務整理をするか、10年経って新たに消滅時効が完成するのを待つほかない。

他方、次のケースはどうか。

(事例2)
時効が完成した債権につき、サービサーから支払督促の申立てをされたが、それを無視していたところ、仮執行宣言が付された。
異議を述べることもなく2週間が経過し、今度は、強制執行の申立てをされた。

このケースはまだ救済できる。仮執行宣言付支払督促は、確定すれば強制執行ができるものの、既判力はないため、後から消滅時効の完成を主張して、債権の存在を争うことができる。ゆえに、請求異議の訴えを提起して、訴状で消滅時効を援用した場合、時効の中断・完成猶予事由等がなければ、判決により、仮執行宣言付支払督促の執行力が排除される。

そして、請求異議の訴えと共に、強制執行停止決定の申立てをすることで、強制執行手続きは止まる。ただし、相応の担保が求められる。
また、手続きの停止であって取消しではないから、既に強制執行が開始されている場合、例えば、預金の差押えの場合、銀行から債権者に支払いがなされることはなくなるが、引き続き差押え分を債務者が引き出すことはできない。(請求異議訴訟の判決又は債権差押命令申立ての取下げまで、銀行がプールすることになる。)

先日、事例2のような事案を扱い、請求異議訴訟で和解が成立した。『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』p155を参考に、以下のような和解条項になった。
原告=債務者
被告=債権者(サービサー)

1 被告は、原告に対し、当庁令和●年(ロ)第●号事件についての仮執行宣言付支払督促に基づく、原告の被告に対する債務は存在しないことを認める。
2 被告は、原告に対し、原告が当庁令和●年(サ)第●号強制執行停止決定申立事件について供託した担保(●法務局令和●年度金第●号)の取消しに同意し、その取消決定に対し抗告しない。
3 原告及び被告は、原告と被告との間には、本和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
4 原告は、被告に対する本件訴えを取り下げ、被告は、この取下げに同意する。
5 訴訟費用は各自の負担とする。

このほか、強制執行手続きは、和解成立前に訴外で取下げられ、既に取り立てた金員は全額返還された。
なお、私の提示した和解条項案は、上記から4項を抜いたものだったが、裁判所の要請で4項を入れた。

法テラス等の多重債務相談を受けると、事例1や事例2のような相談が時々来る。事例1は救済不可だし、事例2も相応の労力がかかるので、裁判所から手紙が届いたら、無視せずに早めに相談してもらいたいものである。
ちなみに、今回の依頼者は、私に相談する前に別のところでも相談をしていたそうだが、その際弁護士からは、裁判で確定したものだから今更もうどうしようもないと言われたという。依頼者が、仮執行宣言付支払督促であることを正確に弁護士に説明したかはわからないので何とも言えないが、仮に説明をした上でその回答なら、弁護過誤であろう。

他方、今回のサービサーの対応をみると、請求異議の訴えまでせずとも、任意交渉でも強制執行の取下げや取立金の返還に応じてきたような気もする(他のサービサーは知らない)。
サービサーが、時効の完成した債権の回収を図るのもどうかと思うが、仮に回収するにしても、なぜ後にいつでも争える支払督促を選択するのだろうか。
訴訟ならば、相手方が無視してくれれば、文句なく確定するのに。