私立小学校・中学校の出席停止命令 その1
非違行為のあった生徒に対する処分の基礎的事項。
公立小学校、中学校は、懲戒としての退学、停学いずれも適法にし得ない。公立高校はいずれも適法にし得る。
私立小学校、中学校は、懲戒としての退学にはし得るが、停学にはし得ない。
私立高校は、いずれも適法にし得る。
問題は、公立、私立問わず、小学生、中学生には停学にし得ない点である。
なお、正式に停学処分を発令せず、自宅学習や自宅謹慎の名目で登校させないことも、非違行為に対する責任・制裁の意味合いであれば、実質的な停学処分と評価され許されない。
もっとも、(小学校、中学校を設置する)市町村の教育委員会は、①他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為、②職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為③施設又は設備を損壊する行為、④授業その他の教育活動の実施を妨げる行為等の性行不良があり、他の児童の教育に妨げがあると認める児童の保護者に対して、児童の出席停止を命ずることができる(学校教育法35条1項)。
これは、学校(校長)ではなく教育委員会ができる措置であるが、発令件数は多くない。手続き面も含めて前例に乏しく及び腰になりがちなのだろう。
いじめに関する報道は、加害側への学校の対応のあり方を指摘する文脈で、時々この制度に言及することもある。
出席停止制度の主体は、「市長村の教育委員会」であって「学校設置者」ではないため、私立小学校、中学校には学校教育法35条1項は直接適用されない。
法令を文言どおり解釈すると、私立小学校、中学校において、学級環境を乱し他の生徒に危害を加えるおそれのある生徒がいても、停学処分、実質的停学処分のような教育的措置、出席停止措置のいずれもすることができず、退学処分にするか出校させるかいずれかしかないことになる。
神内聡『スクールロイヤー 教育現場の事例で学ぶ翔育紛争実務 Q170』p251-253では、「日本の教育法制が児童生徒の問題行動に対する法的措置を限定しすぎている」ことの「弊害の典型例」であって、「「超法規的措置」である感は否めず」と断りつつ、「解釈上の解決策として、私立小中学校が被害者との関係で負う安全配慮義務に基づき、加害者に対する「自宅指導」等の暫定的な措置を法的にも認めるべきである」「もし、学校が被害者の意思に反して加害者を退学処分にしないならば安全配慮義務違反を問われかねないし、被害者の真意が加害者の退学処分までは望んでいない場合に加害者を退学処分にしたことでかえって被害者に心理的負担がかかったならば、やはり安全配慮義務違反にとわれかねない」とされている。
私見も、私立小学校、中学校においても、学校教育法35条1項の出席停止措置に準ずる措置は可能と考えている。
学校法人と生徒との関係は在学契約によって規律され、学校側は、生徒の身分の付与、教育役務や施設の提供、安全配慮、生徒側は学費の納入、学校の包括的規律に服する、といった権利・義務関係が生じる。
これらの契約関係、権利・義務の内容の形成には、教育法・その趣旨を踏まえることは当然だろう。
そこで、法が私立小学校、中学校に出席停止制度を設けていないからといって、一時的な学級秩序維持のために出席を制限することが禁止されているとはいえない(前記のとおり、非違行為に対する責任・制裁の意味合いがあれば当然許されない)。
そして、生徒に帰責される事由により、学校が他の生徒への教育役務の提供義務や安全配慮義務を履行できないような事態になれば、当該生徒への教育役務の履行を一時的に拒めること(出席停止措置を取ること)は、在学契約上当然に予定される制約と解するべきである。
この点について、下級審ではあるが最近の裁判例を確認したので、次回紹介する。