解決事例cases

保険会社が怪我を認めなかったが、訴訟で人身損害の賠償を得た事例

交通事故

事例1(難事件・一審判決・控訴審和解)

状況

依頼者は、乗用車を運転して渋滞で停止していたところ、後方から右側をすり抜けようと徐行してきた加害車両のドアミラーが、依頼者の車両の右側面に接触しました。接触による直接の衝撃がほとんどなかったものの、衝突音に驚いて右を振り返った際に、右肩を痛めてしまいました。保険会社は、事故が極めて軽微であることを理由に、事故による怪我を認めず、治療費の支払いをしませんでした。依頼者は、事故にあったことやこうした保険会社の対応により、精神不安を抱き、精神科で服薬治療を要する事態になってしまいました。整形外科・精神科共に約3か月の通院治療をしました。

当事務所の活動・成果

低速でのミラーの接触という事故であるため、過去の裁判例をみても、同様の類型の事故では、怪我が認められない事案が多数でした。病院からカルテを取り付け、身体的な怪我の機転や精神不安の原因を徹底的に調査しました。

依頼者には、身体・精神共に既往症がありました。既往症がない人ならば通常怪我をすることはない事故態様であっても、既往症が増悪する程度の機転にはなり得る、という筋書きで主張・立証をすることとしました。すなわち、事故により既往症が増悪したため、増悪分については賠償の対象となる人身損害といえる、と説明することで、単に事故により怪我をしたと主張するよりも説得的な主張になると考えました。

加害者・保険会社側は、訴訟でも和解は困難と主張したため、判決を前提とした進行になりました。カルテや精神科主治医の意見書などで最大限立証した結果、判決で請求の一部が認められました。加害者・保険会社側は控訴しましたが、控訴審では若干減額した内容で和解が成立しました。

難事件ということもあり、一審判決は、自保ジャーナル2192号95頁(令和7年10月23日発行)に掲載されました。

コメント

低速でのミラーの接触は、特に怪我に懐疑的な判断がされがちな事案類型です。通常の訴訟のように、単に事故により怪我をしたとだけ主張し、診断書や明細書等の基本書証だけを提出していれば、おそらく請求棄却となっていた事案でした。実際、右肩以外にも首や太ももにも痛みが生じていたのですが、こちらの怪我は認められませんでした。また、同乗者の方の請求は棄却となってしまいました。

既往症の存在は賠償額の減額に働く事情ですので、被害者側がそこを強調することは通常ないのですが、今回は、既往症の存在によって通常は怪我をしない事故でも怪我をしてしまったという筋書きを描いたため、訴状の段階で、既往症に焦点を当てました。

怪我が中々理解されない状況で依頼者の心が折れなかったことや精神科の主治医が親身になって協力してくれたこともあり、一定の成果につながりました。

事例2(一審和解)

状況

依頼者は、バイクを運転中に自動車と接触する事故に遭い、首や腰に痛みが生じて、通院を開始しました。しかし、相手側の保険会社は、バイクで転倒していないことなどを理由に、事故により怪我をしたとは認めないなどと主張し、治療費の支払いをしませんでした。依頼者は、労災保険を使って、約2か月の通院治療をしました。

当事務所の活動・成果

依頼者は、転倒はしていないものの、時速約40kmで走行中に生身の身体で自動車と接触したため、身体への衝撃はあったと考えられました。転倒を避けるために不意に身体に負荷をかけてバランスを取ったため、首や腰に怪我が生じるのは不自然でないと考えました。

当事務所は、事故後の早い段階で相談・依頼を受けました。依頼者に対しては、相手側への怒りはわかるが、誇張をしていると思われないように、症状に見合った通院治療をするように助言しました。 依頼者は、主治医の指示の下で治療を行い、症状が軽減するにつれて通院頻度も減らし、痛みがなくなったタイミングで治療を終了しました。

治療終了後に直ちに訴訟を提起し、受傷機序が不自然でないこと、事故直後から通院終了まで症状が軽減するという自然な経過を辿ったことなどを指摘しました。また、依頼者は、事故直後にSNSに痛みなどの症状を訴える投稿をしていたため、それを証拠として提出し、紛争が生じる前の投稿だから内容も信用できると指摘しました。

裁判所は、怪我を認める前提で和解案を提示し、双方が受諾しました。訴訟提起から5か月足らずで和解成立となりました。

コメント

保険会社が怪我を認めず治療費を支払わないケースでは、まず自賠責保険に被害者請求をするという方法もあります。しかし、自賠責保険の審査は、定型的・迅速な処理に比重を置いているため、細やかな立証には不向きです。

今回は、細やかな立証により裁判所に理解をしてもらうべき事案と考えたため、自賠責保険への請求を飛ばして、直ちに訴訟提起をしました。