初犯の薬物事件の情状弁護
初犯の薬物事件はやることが少なく、国選弁護の事件の中では楽な部類だという言説に接したことがある。
たしかに、例えば前科のない被告人による覚醒剤自己使用1件の事案であれば、執行猶予付き判決と相場が決まっている。生活を監督する情状証人が捕まらなくても、被告人質問で何を言おうと、実刑に変わることがない。それが行為責任というものである。(もっとも、更生可能性の程度次第で、執行猶予期間が長くなったり保護観察を付けるかの判断が変わることはある。)
しかし、だからといって弁護活動の手を抜いてもいいというものではない。
薬物事件で再犯に至るケースは多い。私の感覚ではあるが、再犯者であっても、前回の裁判の時に全く反省していなかったという人は少なく、多少なりとももう薬物は断ち切るという意思を持っていた人がほとんどである。すなわち、自力だけでの更生が難しい犯罪類型である。
そうすると、更生環境を整えるためには、まずは本人に病識を持ってもらって、病院に通院して薬物離脱のためのプログラムを受けてもらう必要がある。私は、薬物使用事件では全件、本人に対して通院治療をお勧めしている。聞いていくれる人ばかりかといわれると・・・だが。
通院治療の成果を公判で顕出するためには、起訴後早い段階で保釈を取ることはマストであるし、その後も公判までの間に本人や家族と密に連絡を取り、病院から資料を取り付けるなどの労力をかける必要がある。決して「楽な」事件類型ではない。
先日終了した初犯の薬物自己使用の国選事件では、本人の意欲や家族の協力もあり、思っていたのに近い形で、スムーズな情状立証ができた。執行猶予判決をもらった後どうするかが、本人の人生を左右することになるであろう。