訴訟不経済?(人傷先行型の訴訟基準差額説)
通院期間が約3か月
過失割合が50:50
人的損害額が70万円(訴訟基準)
通院期間中の治療費の支払いは人身傷害保険
40万円(任意保険・自賠責基準)が人身傷害保険で填補済み
相応の規模の事故で、受傷や通院期間に疑義が生じる可能性は低い
訴訟基準差額説に従うと、人身傷害保険金40万円のうち35万円が被害者の過失部分に充当されるため、被害者は、加害者に対して30万円(70万円×50%-5万円)を請求できる。これにより、被害者は、自身の過失が50%認められる事故ではあるが、賠償金と人身傷害保険金を併せて、訴訟基準の人的損害70万円が全額填補される。
私は、被害者の代理人として、人身傷害保険金の受領・協定を済ませた後、加害者の任意保険会社(対人社)に対して、経過診断書・明細書を添付して、訴訟基準差額説に従った賠償金30万円を提示した。
1か月ほどすると対人社の担当者から電話がかかってきた。「先生からいただいた提示は、最高裁判例の考え方に即して計算していただいているのはわかるのですが、それで示談してしまうと、うちが自賠責保険へ求償しても保険金が下りないので、申し訳ないですが訴訟を提起してください。」という。ほぼこうなることはわかっていたので、特に驚きはなく、淡々と簡易裁判所に訴訟提起した。
加害者・対人社側にも代理人弁護士が就き、カルテの送付嘱託などを経て、まもなく裁判所の和解案に基づく和解が成立した。当然、訴訟基準差額説に基づく30万円である。
受任段階でこうなることを見越して、弁護士特約のタイムチャージ方式(1時間2万円)で受任していたので、コスパが悪いとは思わず、相応の弁護士報酬の支払いを受けた。対人社も代理人に相応の報酬を払っているだろう。また、訴外示談であれば、訴訟基準より少し減額されるので、訴訟をしたことにより、自賠責保険金も増額した。
自賠責実務全体でみると合理的な運用なのかもしれないが、事案単体でみると、なんて不経済なという印象である。