弁護士コラム

政府保障事業から訴訟基準で填補金を取る

国を被告とする訴訟の判決があった。
といっても、中身は、通院期間が4か月程度のよくある交通事故である。

事案の概要(本質を損なわない程度に改変)
乗用車を運転して信号待ちで停車しているところへ、後方から乗用車に追突された。
加害者は、任意保険だけでなく自賠責保険にも加入していなかった。
発生した人的損害は以下のとおり。
訴訟基準
治療費 6万円(健保使用で3割負担)
傷害慰謝料 70万円
休業損害 40万円
合計 116万円

自賠責基準
治療費 6万円
傷害慰謝料 30万円
休業損害 20万円
合計 56万円

依頼者は、人身傷害保険に加入していたので、56万円を受け取っている。(自賠責の範囲なら、多くの場合、人身傷害保険基準=自賠責基準である。)
依頼者としては、人身傷害保険で賄われない60万円を加害者に請求したい。
ところで、加害者が自賠責保険に加入していない場合、国交省が所管する政府保障事業により、傷害なら120万円を限度額として損害が填補される。その後、国が加害者に求償する。120万円の限度額内であっても、政府が填補基準額を定めており、傷害慰謝料が1日あたり4300円など、自賠責と同じ基準になっている。
依頼者は、既に人身傷害保険基準=自賠責基準=填補基準の損害が填補されているため、訴訟外で政府保障事業に請求をしても、填補金は受け取れない。

しかし、政府の定める填補基準額はあくまで内部基準にすぎず、訴訟で損害填補金を請求した場合、裁判所は、限度額の範囲で、填補基準に拘束されずに金額を認定できるとされている。
そこで、国を被告として損害填補金請求訴訟を提起したというわけである。
注意点は、填補限度額120万円から人身傷害保険金56万円のほか、健保からの給付額(3割で6万円なので、健保負担は7割の14万円になる)も控除される点である(自賠法73条1項)。ここは16条請求の場合と異なる。
すなわち、今回の填補限度額は、120万円-56万円-14万円=50万円である。
そうすると、訴訟で政府保障事業に請求できるのは、損害未填補額の60万円でなく50万円にとどまる。

50万円の支払いを求めて訴訟提起したところであるが、被告の国としては、裁判所から和解勧告(当然訴訟基準を前提にした金額)があっても和解をすることはできず、判決によるしかないという話であった。それゆえ、さほど大きな争点があるわけではないが、判決をいただいたというわけである。

弁護士目線でいうと、自賠責未加入の加害者との事故というだけで、回収に難儀することは容易に想像でき、受任に及び腰になりがちである。しかし、政府保障事業の制度や裁判実務を知っていれば、通院期間6か月未満程度の怪我であれば、時間はかかるものの訴訟基準かそれに近い損害が填補される可能性は十分にある。

なお、政府保障事業に関する裁判例は、最一小判平成21年12月17日、京都地判令和3年5月11日、京都地判令和3年6月4日、東京地判令和3年6月8日、名古屋高金沢支判令和5年7月19日などがある。