弁護士コラム

当然の話だが説示されるとありがたい裁量保釈の基礎

師走になると刑事事件が増える印象がある。今の手持ちの国選事件は7件である(うち2件は判決待ち。)。
ちょうど1年前のこの時期であるが、印象に残っている保釈がある。

前科なし・自白事件であるが、事案の性質から、身元引受体制がしっかりしていることや、関係者への接触禁止の条件だけでは、刑訴法89条4号事由は乗り越えられず、もう一工夫必要だった。起訴直後の保釈請求は却下(準抗告棄却)されたところ、その工夫により、(翌年1月に指定されていた)第1回公判を待たずに保釈に漕ぎ着け(検察官準抗告棄却)、何とか被告人に自宅で年越しを迎えてもらうことができた。

保釈許可に至った過程も印象に残っているが、検察官準抗告棄却決定の理由がよかった。津地決令和4年12月16日である。「こうした状況の変化も踏まえて、原裁判官は、①保釈保証金を300万円と高額に設定した上で、②罪証隠滅の防止に資する保釈条件(・・・)を付して保釈を許可したものと認められるところ、そのような原裁判の判断に裁量の逸脱は認められない(なお、検察官は、権利保釈の除外事由がある以上、裁量保釈を認めるためには釈放を相当とする特別な事情が必要であると主張するが、適切な保釈金額と保釈条件の設定によって逃亡や罪証隠滅を防止できるのであれば裁量保釈を認めるべきであるから、検察官の上記見解は採用できない。)。」

権利保釈除外事由があるのだから、裁量保釈を認めるためには、弁護人において、身体拘束の継続による具体的な不利益を疎明すべきである、保釈を必要とする特段の事情(特別の事情)がない、という論調の意見を書く検察官が一定数いる。

しかし、憲法上身柄は自由が原則である。公判運営上支障がある(逃亡や罪証隠滅の危険がある)場合に、やむを得ず身柄を取るのである。それなら、保釈保証金や指定条件で、その支障が払拭できるのであれば、原則に返って身柄は解放されるという、ごくごく当然の帰結である。
身柄を取る根拠を離れて、保釈を必要とする特段の事情が必要などという発想・解釈はどこから出てくるのだろうか。

流石にそのような論説に同調する裁判官はいないと思うが、決定書の説示で明確に否定していただけるのは、(当然の話であるが)ありがたい。