弁護士コラム

イソ弁と刑事弁護

事務所にアソシエイトとして所属する弁護士(イソ弁)は、事務所から給与or報酬をもらい、振られる事件(事務所事件)をこなしつつ、イソ弁個人に依頼が来る事件(個人事件)もやる、という形が多い。
(個人事件が禁止されている、全ての事件が事務所事件扱い、といった事務所もある。)

弁護士登録して間もないころは、イソ弁個人に安定して依頼が来るということはあまりなく、法テラスから配転される国選弁護が多いのではないだろうか。
これは、地域差もあるようで、三重県で仕事をしてきた私は、イソ弁の頃からある程度個人事件を受けてきたが、大阪や東京といった都市圏で就職した同期は、個人事件などほとんどないという。

さて本題に入ると、事務所に雇われるイソ弁が、国選弁護をコンスタントに受任して、満足いく弁護活動ができるのか、という問題意識がある。
私が昨年独立を考えていたときから、特に感じていた問題である。

私が扱った捜査段階の刑事弁護の例である。

例1
X日昼前 当番弁護の出動依頼
     接見
     家族・被害者と連絡
X+1日 法テラスから被疑者国選の受任打診
     裁判所から指名通知
     接見
X+2日 昼前に被害者から嘆願書取得
     夕方に勾留に対する準抗告申立て
     夜に準抗告認容、被疑者釈放

例2
X日   法テラスから被疑者国選の受任打診
     裁判所から指名通知
     接見
X+1日 家族と打ち合わせ
     接見等禁止に対する準抗告
X+8日 勾留満期、午前中に延長決定
     午前中に延長理由のある勾留状謄本の交付申請・検討
     夜に当直に準抗告申立て
X+9日 延長準抗告棄却
X+15日 満期前日、この日までに保釈の準備完了、検察官に書類FAX
X+16日 朝一で検察官に起訴時間を午前中と確認
     10:45 裁判所に起訴状がまだ出ていないと確認
     11:45 裁判所に起訴状が出たと確認
     12:00 保釈請求
     17:00 保釈許可決定、検察官に準抗告がないと確認
     18:00 保釈保証金納付

いずれも自白事件である。身柄釈放に向けた準備は、捜査段階でできる数少ない活動なので、力の入れどころであろう。
上記の例は、比較的スムーズにいった例であるが、イソ弁の立場だったら、このスピード感で動けるだろうか。

例2は、独立後の事件であるが、X+16日が金曜日であったため、少しロスがあれば、保釈の判断が週送りになり、身柄釈放が3日遅れるため、予定をほぼ空けて対応したが、それでも気が気で仕方なかった。

仮に例2で、イソ弁が事務所事件と両立しながら、金曜の保釈が実現できるかといわれると疑問である。
(ついでに、接見等禁止の付いている事案で、家族との接見等の確保は、受任して最初にやるべき初動であり、これも指名依頼が来た時点で接見とセットで予定に組み込まなくてはいけない。)
金曜日の日中に、事務所事件の予定が入っていれば、相当厳しいように思える。

勾留満期は予めわかるものの、捜査段階では流動的に事が進むものである。今回も、延長準抗告が一部でも認容され、満期が前倒しされていれば、保釈の日も変わっていた。
朝から1時間に1回裁判所に起訴状が出たか電話で確認してもらう、出たらすぐに保釈請求書を持っていってもらう、許可決定が出たらすぐに保証金の納付時間を伝えて納付してもらう、といったこと(どれも1時間以上遅れてはならない)を事務局に頼める環境なら、料率が可能なのかもしれないが、イソ弁の国選でそこまで許されるだろうか。

私は、単純な自白事件であっても、特に捜査段階、身柄釈放のために満足のいく活動をするためには、イソ弁の立場では難しいと判断した。
(私は、前職でも結構好き勝手に個人事件をやってきた身であるが。)

勿論、全ての国選弁護人にこの水準を要求すれば、担い手はいなくなるだろうし、例2で保釈が週明け早めくらいになるのは、仕方のないことであろう。私自身も、毎回ベストな結果を得られているかと言われると、そうではない。