弁護士基準満額取れますか?という質問
慰謝料は弁護士基準満額取れますか?
交通事故の通院慰謝料は、弁護士に依頼する場合とそうでない場合とで保険会社の提示が変わるという情報は、インターネット上にあふれており、相談に来られる方が予備知識として知っておられることも多い。(その情報は必ずしも正確とはいえない。)
そこで、時々聞かれるのが、先生に依頼したら弁護士基準の満額を取れますか?という質問だ。
まず、訴訟をせずに弁護士基準満額で示談ができるかは、保険会社によるとしか言いようがない。こちらが理屈で正しいことを言おうと、保険会社がうんと言わなければ示談は成立しないのだから。
経験上、弁護士が入っても、保険会社は中々弁護士基準満額に応じない。8割の提示から始まって、譲歩と称して9割を提示してきて、さらに交渉で上積みをして数字を整える、といった印象である。(何か争えるような具体的な主張もなく、単に訴外だというだけで8割や9割と言ってくるのは不快ではある。)
次に、訴訟になった場合。和解案では、前提となる通院期間が必要なもので、接骨院等での過剰診療がない、素因減額(orそれに近い要素)がない等の条件の下では、弁護士基準満額が認められる可能性が高い。弁護士基準というのは、『赤い本』という文献に掲載された入通院慰謝料算定基準を指すのだが、慰謝料については長年にわたって赤い本に依拠した実務が積み重ねられており、裁判所は、敢えて異なる認定をする相応の根拠がなければ、赤い本の弁護士基準に従う可能性が高い。
村林法律特許事務所の方針は?
最後に、村林法律特許事務所の処理方針はどうなのか?訴訟してでも弁護士基準満額を取りにいくのか?という点。
これは、弁護士基準満額を原則としつつ、ケースバイケースに柔軟に対応、である。(無論私はそのような方針を依頼者に提案し、最終的に決めるのは依頼者である。)
そもそも、被害者代理人弁護士の目的は、賠償額を最大化・適正化することであって、弁護士基準というのはその手段に過ぎない。弁護士基準の満額にこだわって訴訟した結果、最終的に得られる金額が減っては元も子もない。
訴訟の結果は予測しづらい面がある。
文書送付嘱託で提出されたカルテに被害者に不利な記載があった等で、慰謝料算定の前提の通院期間を短く認定された、訴訟前には争点化されていなかった過失割合・素因減額がされた等、思わぬところで賠償額が減るリスクはある。また、費目によっては、訴訟で認定される金額が読めないものもある。(例えば家事従事者の休業損害。訴外交渉では割と高く合意できることも多い。)
このように、闇雲に訴訟をすれば得られる額が増えるものではないことに注意する必要がある。先を読んだ作戦を考えるのが重要であろう。
とはいえ、特段の事情がなければ弁護士基準満額が原則というのは、私の確たる考え方である。
噂ではあるが、交通事故を扱う事務所の中には、交渉の労力を惜しんで業務を効率化するため、弁護士基準の8割などの保険会社の提示に簡単に応じて事件を回していくスタンスのところもあると聞いたことがある。
被害者側に注力する弁護士として、それはあり得ないことである。