日弁連交通事故相談センターの示談あっ旋を利用してみた
交通事故に関するADR(裁判外紛争解決手続)といえば、公益財団法人交通事故紛争処理センター(通称「紛セン」)の和解あっ旋があるが、もう1つ、公益財団法人日弁連交通事故相談センターの示談あっ旋というものもある。両者の相違点は色々なサイトで紹介されているので、詳細は割愛するが、紛センは当地(三重)の最寄りが名古屋支部であるのに対し、相談センターは三重弁護士会で対応している。また、紛センは、和解あっ旋が不調に終わって審査に移行した場合、相手方が保険会社の場合には裁定に片面的拘束力がある(要するに、被害者は裁定を蹴って訴訟に進めるが、保険会社は裁定を尊重することになっている)。他方、相談センターは、示談あっ旋が不調に終わった場合、相手方が一部の共済の場合には審査に進むことができ、評決に片面的拘束力があるというのも大きな特徴である。
私は、紛センの和解あっ旋は何度か利用したことがあるが、相談センターの示談あっ旋は利用したことがなく、先日、初めて示談あっ旋を利用した。相手方が保険会社だったので、評決の片面的拘束力はないが、保険会社であってもあっ旋案は尊重しているのが実情だと聞いていたので、試しに利用してみた次第である。
(事案は本質を損なわない程度に改変)
傷害事案で通院は2カ月、治療関係費や過失割合等に争いはなく、争点は、傷害慰謝料のみという事案であった。
もっとも、加害者が事故後逃走していたという事情がある。申立前の段階では、当方は、赤い本別表Ⅱで傷害慰謝料を算定した上に、ひき逃げを理由に約30%増額して(2024赤い本p247参照)、保険会社に提示した。これに対する保険会社の対案は、訴外であることと、通院頻度が少ない(週1回程度)ことを理由に、赤い本別表Ⅱの80%というものであった。
増額はともかく、80%や90%で示談に応じるはずもなく、早々に訴訟提起してもよかったのだが、試しに示談あっ旋を申し立てたところ、第1回期日で、赤い本100%であっ旋が成立した。(以前、別の保険会社が相手になった似たような事案では、担当者が落としどころを理解したため、すぐに電話がかかってきて、重過失や増額事由を否認しつつ100%を打診されてすんなりと示談が成立したこともあったのだが。)
三重の場合、第1回期日はあっ旋申出から約3週間後くらいから指定可能な状況で、訴訟より早い。今回は、やや遅めで1カ月後に第1期日が指定されたので、申出から1カ月で解決したことになる。
保険会社側の弁護士委任もあまりなく、文書送付嘱託などもないため、解決までの時間は訴訟に比べるとかなり短い。
あくまで示談あっ旋であって一定の互譲が前提になるため、今回の慰謝料増額事由のような主張を通すのは難しいのかもしれないが、交渉より高い水準の解決は期待できる。訴訟を提起して予想外に形成が厳しくなるリスクも小さいので、争点が単純など利用に適する事案は、今後も積極的に検討していきたい。
たまには名古屋の紛センに出頭するのもいいけれど。