交通事故訴訟で損保側が控訴したので仮執行をかけてみた
少し前に交通事故の難事件が終結した。以下、本質を変えないように事案を改変する。当方は被害者・原告側である。
いわゆる受傷疑義事案で、事故態様からすると十中八九受傷否認となる事例だったが、特殊事情もあって、詐病が疑われるケースではなく、受傷あるいは身体の不調自体は存在する可能性が高いが、それを被告側に帰責できるかが問題であった。
自賠責に被害者請求したところで、受傷否認の既成事実ができるだけなので、いきなり訴訟提起した。被告・損保側は和解勧試自体を拒んで判決に進み、一審では一部受傷が認定されて、50万円が認容された。これに対して、被告・損保側が控訴した。なお、一審判決には仮執行宣言が付されていたが、被告側は、控訴と同時に強制執行停止決定の申立てをしていなかった。
そこで、当方は、一審の仮執行宣言付判決に基づき、被告(加害者)本人名義のある預金口座に債権差押命令の申立てをした。差押命令の送達後しばらくすると、被告側からの申立てにより、40万円の立担保を条件とする強制執行停止決定がされた。
控訴審では、受命裁判官から和解勧試があり、担保金額の40万円で和解が成立した。
通常、被告側に任意保険がある事案では、判決が確定すれば賠償金を取りっぱぐれるおそれは高くないので、わざわざ仮執行までかけようとは思わない。もっとも、私が被告側で控訴するなら、強制執行停止決定はきちんと取る方針ではあるが。
ただ、仮執行宣言付判決に基づく強制執行は保全とは異なり、被告側の財産保全だけが目的でなく、早期の被害回復や濫上訴の抑止といった目的もあり、被告側に任意保険があるのに仮執行をするのは不当で怪しからんという指摘は当たらない。(現に、多くの判決では、任意保険による回収見込みがあることも考慮した上で、仮執行宣言を付す必要性があると判断している。)
今回も、仮執行をしなければ、被告側は控訴審でも和解を拒み判決に至っていた可能性が高く、現に和解で一審より金額が減っていたことからも、判決に至れば結論がどうなっていたかわからない。仮執行により被告側に強制執行停止の手続きを踏ませたことにより、終局後の担保金の扱いの問題を生じさせ、当方が担保取消に同意するという被告側が和解に応じる動機付けを作ることができた。
毎回こんなことをするわけではないが、被告側に保険会社があったとしても強制執行はできるという選択肢を頭に入れておいて損はないだろう。