弁護士コラム

慰謝料を得るためには頻回の通院が必要?

通院は2日に1回?慰謝料は日額4300円?8600円?

今回も、交通事故によるむち打ち・捻挫・打撲等の損害賠償の話である。
交通事故でケガをして通院した場合、治療費とは別に通院慰謝料(精神的損害)を請求できるのは、知られている話である。

当事務所に相談に来られるの方の中には、リハビリ治療のため、❶ほぼ毎日のように通院されている方、❷2日に1回のペースで通院し、毎月ちょうど15日又は16日の実通院という方がいらっしゃる。
いずれも、保険会社から治療費の打ち切りの話が出ると、ぴたっと通院を止めてしまう。

前提として、主治医の指示・助言の下でそのような通院をしているのであれば、私からそれ以上どうこう言うことはない。今回の記事で取り上げるのは、患者様自身の考え・判断でそのような通院をしているケースである。

理由を聞いてみると、(聞く前から想像はつくが)要するに、通院慰謝料は日額4300円(or8600円)と決まっていて、そのような頻度で通院すると通院慰謝料を最大化できると聞いたからだという。
当事務所に相談に来られた依頼者だけでなく、他にもそのように考えている被害者の方が相当いらっしゃるようだ。

複数のサイトに、日額4300円や8600円、2日に1回通院するのがいいといった情報が掲載されているのが要因だろう。

自賠責保険の支払基準の話

そのような情報の元は、自賠責保険の通院慰謝料の支払基準が、日額4300円とされており、
⑴ 4300円×通院期間(日)
⑵ 4300円×実通院日数×2
の少ない方により算定されることにあろう。
⑵を、実通院1日を基準にして「日額8600円」と表されているのだろう。

(例)
リハビリ通院に3カ月(90日)を要し、3日に1回のペースで通院したため、病院に行ったのが30日とする。
自賠責保険に被害者請求する場合、
⑴ 4300円×90日  =38万7000円
⑵ 4300円×30日×2=25万8000円
になり、少ない⑵の25万8000円が自賠責保険から支払われる慰謝料になる。すなわち、通院に要した90日より短く評価されてしまう。

これに対して、2日に1回ペースで通院し、病院に行ったのが45日だとすると、
⑵ 4300円×45日×2=38万7000円が支払われ、90日分を評価されることとなる。
それゆえ、2日に1回のペースで通院するのが得策と考えられ、❷のケースが現れるのであろう。

なお、それ以上の頻度で通院しても、⑴<⑵になるため、38万7000円を超えることはない。
❶のケースは、「日額4300円」が独り歩きした末であろう。

自賠責の支払基準≠請求できる損害額

しかし、自賠責の支払基準は、あくまで訴訟をせずに自賠責保険に被害者請求した場合に任意に支払われる金額であって、被害者が加害者(保険会社)に対して請求できる損害額とは異なる。

弁護士が介入して保険会社に賠償案を提示する場合、訴訟になり裁判所が判断する場合、紛セ(交通事故紛争処理センター)があっ旋案を出す場合などは、後者が前提である。通常、自賠責の基準だけで賠償が完了することはない。
そしてその場合、通院慰謝料の算定において、期間は、実通院日数×2といった制限はなく、通院期間により評価されるのが原則である。(通院期間が長期間で、合理的な理由もなく通院頻度が極端に少ないような例外のケースで、通院期間を短縮して評価されることがある。)

先ほどの例では、赤本基準(弁護士基準・地裁基準とも呼ばれ、裁判所が参考にするもの)の別表Ⅱによれば、53万円(通院3カ月)である。通院頻度が2日に1回でも3日に1回でも変わらないだろう。

適正な金額の賠償を勝ち取るために、自己判断で無理に頻回の通院をする必要はない。

無理に頻回の通院をするリスク

❶、❷のリスクを説明する。

毎日のように通院する❶のケースは、後に保険会社に、隔日の通院と比較して症状がより改善するわけでなく、そこまでの通院の必要性がないと争われるリスクがある。

治療費が必要かつ相当であることは、被害者側が立証していく必要があるため、毎日通院することによる改善効果を医学的に明らかにしなければならなくなる。訴訟では、相当期間・頻度のリハビリ通院を要することは事故規模や診断書等から認定できても、毎日である必要があるか?という疑問が残り、治療費の一部が自己負担になるおそれが否定できない。
そして、そのように被害者側の主張に弱い点があると、訴訟前の示談の段階でも、訴訟やむなしという強気の対応がしにくく、他の費目を含め譲歩を余儀なくされるといった悪影響が生じる。

毎月ちょうど15日又は16日の通院を続けて治療費が打ち切られると通院をやめる❷のケースは、2日に1回という頻度の点はそこまで疑義が生じやすいとはいえない。しかし、症状固定時期(2023年4月25日のコラム「保険会社から治療費の支払いを打ち切られたら」参照)がもっと早いのではないかと争われたときが問題である。

数カ月間ちょうど月15日又は16日の通院を続けて、治療費が打ち切られるとぴたっとやめるというのは、第三者から見ると奇妙である。
症状が改善されていくなら、だんだんリハビリ日数が減っていくものではないか。病院に行っている間、日常生活の時間が取られるのだから、良くなったら自然と病院から足が遠ぬくものだろう。と感じられるのである。

例えば、6カ月通院して、最初の3カ月が実通院15日ずつ、残りの3カ月が実通院10日、8日、5日とする。
これで症状固定時期を争われたとしても、3カ月を過ぎて徐々に症状が改善したからこそ通院日数が減っていったんだろうと反論できる。

方、6カ月間一貫して実通院15日ずつだとすると、結局めぼしい改善効果もなく漫然とリハビリを続けたのではないか、症状固定時期はもっと早いのではないかと指摘されてしまう。

正確な情報で適正な賠償を

もちろん、交通事故でケガをした被害者が、十分な慰謝料の支払いを受けられる方法を調べるのは自然であり、それを踏まえた通院をすることは非難されるものではない。(症状もないのに通院するのはダメだが。)

もっとも、「日額4300円」「日額8600円」「通院日数×2」といったネット上の断片的な情報だけを真に受けて、被害者に損をしてほしくない。