電動キックボード(特定小型原付)の話1 ルール
2023年7月の電動キックボード規制緩和
ニュースで話題になっているが、2023年7月1日に、改正道路交通法が施行された。主として特定小型原付に関するものだ。電動キックボードのうち、一定条件を満たせば、「特定小型原動機付自転車」として、従来の原付より緩く、自転車に近い規制により、公道を走行できるようになったのだ。
なお、三重県では、特定小型原付に当たるタイプの電動キックボードはまだほとんど走っていない。なぜなら、どのメーカーのものも、早い時期に予約注文していても、販売店の発送が早くとも8月半ばころになるようで、個人所有の電動キックボードはまだ流通していないためである。
他方、東京など一部の都市部では、「Luup」などによる、レンタル・シェアリングサービスが提供されている。事前に身分確認やクレジットカードの登録をすることにより、各所に設置された無人の駐輪ポートから、電動キックボードを気軽にレンタルできる。これにより、都市部では、早速多くの電動キックボードが走っているようだ。
色々と問題点や批判もあるところだが、小学生のおもちゃにモーターを付けて、次世代の移動手段として普及させるという発想は、中々面白い。私は関心を持っており、既に、あるメーカーの特定小型原付タイプの電動キックボードを予約注文している。この他、従来の原付タイプの電動キックボードも1台所有しており、津駅前の事務所と弁護士会館・裁判所方面との移動に使っている。
主要なルールを正確に確認しよう
特定小型原付の交通ルールは、警察庁などが熱心に周知しており、大まかなことは浸透しているのではないだろうか。しかし、一部誤解を招きそうな部分もあるため、法律家の視点で解説しようと思う。関係法令(複雑で読むのは相当面倒である。)をざっと追った一個人の見解・解釈なので、現在又は将来において、国の解釈と異なってくる可能性があることは断っておく。
(警視庁HPより引用)
最高速度は20km/h?
一般道での自動車の法定最高速度は60km/h、原付のそれは30km/hであることは、運転免許を持っている人ならば知っているだろう。
それでは、特定小型原付は、法定最高速度が20km/hになり、それを超える速度で走行すると最高速度違反になるのだろうか。答えはNOである。
改正法では、原動機付自転車について、従来の原付(道交法2条1項10号イ)と特定小型原付(同ロ)が定義された。規制が緩和されるのは後者である。
そして、電動キックボードのうち、特定小型原付に当たる条件の1つとして、構造上20km/hを超える速度を出せないこと(道交法施行令1条の2の2第2号ロ)が定められたのである。
すなわち、電動キックボードのうち、構造上20km/hを超える速度を出せる場合、特定小型原付とは認められないため、いくら20km/h以下で走行していたとしても、特定小型原付の規制により運行することはできず、免許の保持、ヘルメットの着用等が必要になってくる。
逆に、構造上20km/を超える速度を出せない車両であれば、例えば、下り坂の惰性や、「キックボード」のように地面を蹴って助走をつけるなどして、20km/hを超える速度で運転していても、それだけで違反にはならないようである(そのような運転を推奨できるかは別の問題だが)。
最高速度20km/hの意味に注意されたい。
もし万が一、特定小型原付タイプのつもりで電動キックボードを購入して、ナンバーを取得して走ってみたら20㎞/hを余裕で超えたとなれば、大変なことだ。それは、特定小型原付としては、適法に公道を走行できない粗悪品ということになる。
歩道通行の速度
特定小型原付は、車道走行が原則であるが、一定の条件を満たすことで標識のある歩道を通行することができる(特例特定小型原付)。歩道を通行できる条件の一部に、①最高速度表示灯を点滅されること(道交法施行令5条の6の2第1項)②構造上6km/hを超える速度を出せないこと(同第2項)などが定められている。
車道通行の20km/hモードと歩道通行の6km/hモードの切り替えのできる構造の電動キックボードが製作されているようだ。
これも、いくら歩道を6km/h以下で走行していたしても、車道通行モードで走行していれば違反になる。
逆に、歩道モードにしていれば、6km/h+キックの助走で、10km/hで走行していたとしても、それだけでは違反にはならないようである。ただし、道交法17条の2第2項の徐行義務等に抵触しないように注意する必要がある。
通行できない歩道
特例特定小型原付の歩道通行のルールは自転車と似ているが、大きな違いもある。
標識により歩道通行可とされている場合は、特例特定小型原付も自転車も歩道を通行できる(道交法17条の2第1項、63条の4第1項1号)。
自転車の場合、標識のある場合の他、①運転者が児童、幼児、70歳以上の高齢者等の場合(道交法63条の4第1項2号、道交法施行令26条)、②自転車の通行の安全を確保するため歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき(道交法63条の4第1項2号)に歩道を通行できる。
実際のところ、車道通行が危険かどうかは運転者が判断しており、②があるために、標識のない歩道を自転車が通行していたとしても、お咎めがないのが現状である。
しかし、特例特定小型原付は、①②の適用はなく、標識のない歩道を通行すれば、問答無用でアウトである。この点は、今の道路の実情に照らして、影響が大きそうなので、大事なところである。