弁護士コラム

簡易裁判所で国家賠償請求事件が審理されるか

簡易裁判所に1件訴訟を提起した。国賠法2条1項に基づく損害賠償請求事案である。訴額が2桁万円なので、法定の事物管轄に従って、簡易裁判所に訴訟提起した。行政事件訴訟は、訴額が140万円以下であっても簡裁に管轄はない(裁判所法33条1項1号括弧書き)が、国家賠償請求は行政事件訴訟ではないため、訴額が140万円以下なら簡裁の管轄である。

ところで、民訴法16条2項本文と専属的合意管轄の関係が問題となった最二小判平成20年7月18日民集26巻7号2013頁は、要旨、次のように判示している。

・簡裁は、少額軽微な民事訴訟について簡易な手続により迅速に紛争を解決することを特色とする裁判所である。
・簡裁判事の任命資格は、判事よりも緩やかである。
・これらを前提に、地裁で審理・裁判を受けるという当事者の利益を重視し、簡裁管轄の訴訟が地裁に提起されても、事件の内容に照らして地裁での審理・裁判が相当と判断したときはその判断を尊重するのが民訴法16条2項の趣旨である。

さて、具体的な統計等を確認したわけではないが、国家賠償請求事件というと、事案が複雑で基本的には地裁でやっている印象がある。確かに、簡易な手続きにより迅速に紛争を解決するという簡裁の特色には合わないことが多そうである。
もっとも、判例検索をかけてみると、数は少ないが簡裁の国賠事案もあった。国賠法2条の事案は、宇都宮簡判令和5年11月28日、武蔵野簡判平成30年4月26日、佐賀簡判平成29年1月20日等がヒットした。それ以外には、住民票の写しの交付に関する過誤が問題となった名古屋簡判平成28年7月21日等がヒットした。

今回は思うところあって(私は今回に限らず訴訟提起する裁判所の選択にはこだわりがあり、どこがいいか毎回悩んでいる)、簡裁に訴訟提起してみた。進行中の事件なので詳細は伏せるが、損害論だけでなく、国賠法2条1項の瑕疵該当性にも争いが出る可能性のある事案である。民訴法16条2項に基づく自庁処理の申立てを付けて地裁に提訴すれば、ほぼ間違いなく自庁処理されるであろう。
それでも敢えて簡裁を選んだ。地裁に移送されることなく審理してもらえるか、興味深い。

なお、被告側から早い段階で移送の申立てがあれば、反対するつもりはない。前記最判でも、地裁で審理・裁判を受けるという当事者の利益がに言及されている。